【国防論】
今後の日本がとるべき国防政策について考察するには、まずそのバックボーンとなる世界の情勢についてきちんと把握していなければならない。また、軍事的な考察のみが一人歩きしては、バランスのとれた結論にはとうてい到達し得ないのも自明のことである。意味のある結論を出すためには様々な事象に対して多角的な分析、正確できめ細かな判断が必要なので、まず簡単に現在の日本を取り巻く政治・経済・軍事の三方面における情勢を整理してみよう。
80年代後半の冷戦構造の崩壊により、世界は新たな秩序のもとに統治されるはずであった。しかし、現実は全世界規模の民族主義の台頭であり、チェチェン、ボスニアそしてコソボと現在でも世界のあちこちでその火を燃やしている。これは結局、アメリカとソ連という2大強国による支配秩序が、予想以上に大きなものだったといえる。
ポスト冷戦構造の構築が叫ばれる中、ソ連の落とし子であるロシアは急速にその影響力を落としていく。経済は混乱をきたした。外貨でしか市場の流通を支えることができなり、国民生活は困窮をきわめていく。
ロシアとは対称的にアメリカは90年代後半に入り景気の好調な時期を迎えている。湾岸戦争とそれに続く、ソマリア、ルワンダ等の国連軍派遣によってアメリカの持つ軍事的影響力は地に落ちたとも言われていたが、99年3月のNATO軍によるコソボ空爆によって、アメリカ軍のハイテク兵器によるピンポイント爆撃が再び脚光を浴びることになった。
今回のコソボ空爆で勝利を収めたNATO軍は、国連の枠組み外での軍事行為の正当性を世界に披瀝した。それまでの国際秩序は、いい意味でも悪い意味でも国連主導で行われてきた。湾岸戦争やその他の国際紛争でも、国連決議の下に軍事行動がとられてきたのである。ところが、今回はその手続きを経ずに「人道的な立場から」との大義名分によって軍事行動が開始されたのである。
世界はこの行動を非難したが、それも形だけのもので、各国は空爆の推移に注目した。そして、アメリカのハイテク兵器にはかなわないと、世界の国々は認識する事になったのである。このアメリカの一人勝ちの状況に、世界は当分の間つきあわされることになるだろう。不幸なことに、この“アメリカ強し”の意識が極東情勢をさらに緊張させていくことになる。
あまり報道されないが、今回のコソボ空爆に際して、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)や中国は大規模な軍事視察団をユーゴスラビアに派遣している。理由は明確で、NATO軍(つまりアメリカ軍)の空爆を戦略・戦術的に分析するためだ。
太平洋地域、特にアジア地域におけるアメリカの持つ影響力または軍事的スタンスは大きなものであることを認識すると、これらの国のアメリカに対する危惧がよく理解できる。
数年前、アメリカ統合参謀本部が想定した仮想敵国との戦争シナリオによるとかつての脅威であるロシア、イラク、リビアは、もう「敵国」としては役不足であり、考えられるケースを分析すると「統一された南北朝鮮に中国が侵攻、そこへ米国が介入する」といったものであった。さながら第2次朝鮮戦争を連想させるが、現在の極東情勢は、よりこの想定に近づきつつある。アメリカがつぎに軍事行動を起こすとしたら、朝鮮半島有事もしくは北朝鮮がかたくなに調停案を拒否し、国際政治の枠組みからはみ出したときと考えている専門家は多い。
早い話が、世界で戦争の起こる可能性のある地域の中心に、いつのまにか日本は存在しているといったことである。われわれの手の届かないところで、極東地域の軍事的な緊張は確実に高まってきている。
そして、この地域は世界経済に対する、影響力が極めて高いということが特徴でもある。日本だけに限ってみても、全世界人口の2%の国民が、全世界の国民総生産の実に17.8%を生み出しているのである。戦後最大の不況といわれる現在でさえこのレベルなのである。
日本の10分の1の経済規模ながら、一時の金融危機を国家的規模の改革で克服しつつある韓国も、朝鮮半島統一といった課題があるにしても、そのキャパシティーは大きなものがある。
中国は現在、大陸と台湾というように分裂している。この二つが統一された場合、大陸の市場と台湾の技術が融合して新たな奇跡を生む可能性が高い。そして、東南アジア諸国のめざましい近代化。
こうしてみると、日本を取り巻く情勢は政治的・軍事的・経済的に密接につながっており、これらの要因の微妙なバランスが、現在の極東情勢をかろうじて保っているというのが現状のようだ。
ではこのような状況の中で、日本の取るべき国防指針は何かを考えてみたい。
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