朝日新聞 社説 昭和61年1月1日
・・・・・・・日本の大政党はイデオロギーという点でいろいろ問題を抱えていることを、改めて強調しておきたい。
自民党は、米国や西欧と価値観をまったく共有していると自認している。
だが、その指導者の中には、戦前戦中に軍国主義と闘った自由主義者よりも、敗戦後やむなく全体主義から自由主義に転じたもの、及びその思想的後継者の方がはるかに多い。
彼らが「戦後を見直す」といった力み方をすると、衣のしたのヨロイのように「戦前的日本」への郷愁が姿を見せる。
ナショナリズムに名を借りた「逆コース」には、われわれは強い警戒心を抱かざるをえない。
社会党は・・・「階級政党から、社会主義のよいところを充分にとり入れた国民政党への脱皮」ができるかどうか、今月の続開党大会を注目したい。
・・・・・・ いま国民大多数は「戦前的日本」もごめん、マルクス主義も嫌い、という気持なのではないか。
つまり、自民、社会党とももう少し真中に歩み寄り、中道政党とともに「是々非々の政治」をしてほしい、と願っているのだと思う。
・・・・・・ 忠誠心、協調性を過度に重視する日本の社会では自民党総裁選の時の派閥のしめつけに、象徴されるように、大事な問題で自らの判断を放棄することがよくある。
・・・・・・ 日本の政治から、メダカや羊、ヤミ商人、裏口入学的なものを極力締め出す努力をしてゆきたい。
・・・・・・ ワシントンが「中国封じ込め」と号令すると、中国敵視政策をとらなければ日米友好にひびが入るかのように考え、「戦略防衛構想(SDI)に参加を」と頼まれると、異議を唱えるものを「反米」ときめつけたりする。
国民に一つの価値観を押付けるのではなく、多種多様の価値観の共存を保障するのが、自由主義社会のあり方であろう。
・・・・・・保守も革新も、自分達の思想体系や主張が内弁慶的なものにならぬよう、たえず国際的視野から客観的に自らを見直すようにしてほしい。
自民党は「戦後政治の総決算」を唱えるなら、ワシントンや北京でも堂々と言えるようにしないといけない。
「反ソ・イズム」というイデオロギーさえ掲げていれば、「戦前的日本」を肯定しても大丈夫だ、といつまでもたかをくくっていてよいものかどうか。
社会党の左翼のバネには、自民党があまりにも右へ引っぱろうとする動きに対する危機意識のあらわれ、といった面もなくはない。
ただ「少数意見の尊重」「ガラス張りの政治」「警察国家反対」「能率、サービスのよい社会」などを論ずるさいは、社会主義国の現実にも言及しなければ説得力を欠いてしまう。
幻想や思い込みの上に立った主張を繰り返していたのでは、民度の高い日本での党勢先細りは避けえないだろう。
・・・・・・戦後もなおイデオロギー、ないし硬直化した教条主義が各所で幅をきかせ、民主主義の成熟を阻害している。
昨年末、自民党タカ派イデオロギーの象徴ともいえる国家秘密法案が廃案となった。
革新陣営だけでなく、非左翼的な団体や自民党の一部にも反対論、消極論がたかまったためだ。
その経緯は、極論独走を阻止するには何が有効か示唆しているように思われる。 |